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2006年10月26日 (木)

尚美のポートレート

1po02 【あらすじ】
若手の画家が、一人の少年と出会う、少年の希望で彼が女装してモデルになった絵を描きそれが美術展で入選する。そしてお祝いの酒に酔い、女装した少年と結ばれてしまう。しかし少年は逢うたびごとに女性として成長する。最後はその少年が秘めていた謎がわかるときがくる。


第1章 霧の中の出会い

 冬の午後は3時を過ぎるとどんどん冷え込んでくるため、いつもならスケッチを終えて帰り支度をしていただろう。その日は朝から霧が発生して、お城の公園の中でも視界が遮られていた。2月にしてはその分だけ気温は高く、私こと坂崎隆一は松本城のデッサンを仕上げようとしていた。その時私の後ろに一つの人影が近づいて来た。こうしてデッサンなどしていると、後ろから覗きこむ人が結構いるのだ。しばらくすると、その人影が話しかけてきた。

「お兄さん、絵描きさんなの。どんなにがんばっても僕が書けないぐらい素敵なデッサンですね。」
「ほんの下書きでね、今日はこれぐらいにしておこうかと思ってるんだ。」
「お兄さんは、いつもどんな絵を描いているの。」
「一言で言うと風景、野や山や自然と、古くからある建造物かな。」
「どういうところが気に入ってるの。」
「山や大地、それと古い建物のもつ美しさかな。」
「お兄さんは、人やモデルなんかは描かないの。」
「あんまりね。本当は人物画には自信があるんだよ、でもね注文がないのでね。」
「注文がないと描けないの。」
「うんそうだね、風景の絵は家の中の飾りとして売れるけど、人物画は難しいんだ。」
「じゃあ、僕を描いてくれる。僕が注文すれば良いでしょ。お兄さん、お願いします。」
「しょうがないなぁ。ここでは寒いから、僕の家で描こう。ついておいで。」

 少年の名は仁科尚文、17歳。父の経営する会社が東京にあるため、東京の京王学院大学の付属高校に通っている。高校2年生、父の再婚相手や東京の家になじめず、母と暮らした想い出のある松本の家に帰ってきているのだ。

 その日のうちに少年と話し合い、彼をモデルとして私が作品を作ること、モデル料は払わない(私の収入では払えない)と言うことで納得した。その晩にあらかたのデッサンを仕上げて、次回は3月の学校が休みの日ということになった。
 尚文少年は、身長は160?もなく小柄で、顔色も青白く、やせていてまるで病人のような陰気な感じがしていた。でも笑うと幼くあどけないところがあり、デッサンをしている私は久しぶりに楽しい時間を過ごせた。

 3月の最終の土曜日、私は松本城の堀端でのデッサンを終えてそろそろ帰ろうかなと思い始めた時、後ろから近づく人の気配がした。尚文少年だった。

「坂崎さん、遅くなってごめんなさい。この前の続きをお願いします。」
「ああそうだったね、待ってたんだよ。じゃぁ、私のアトリエに行こう。」
 アトリエと言ってもリビングルームと寝室しかない狭い1LDKのマンションなのだ。
「坂崎さん、前よりもずいぶん片付いていますね。」
「尚文くんが来るから、少しは片付けたんだよ。」
「それじゃぁ、もう少し台所の片付けもお手伝いします。」
「モデルじゃなくて、家政婦さんになるつもりかな。」
「片づけが済んだら、モデルになります。」
 その日は下絵がほぼ終わり、絵の具をぬるところまでで終わった。2月の尚文少年のデッサンと比べると、以前より顔色が良くなっているような気がした。

 松本にも春が来て、桜の花も満開となり街を行き交う人々の服装も、明るく華やいだものになってきた。そして新年度の絵画展の日程が決まり、私も何を出品するか決断を迫られていた。そんなゴールデンウイークを間近に控えた夕方、松本駅前の交差点で尚文少年と出会った。

「坂崎さん、今から良いですか。モデルだけでなく、家政婦もしますよ。」
「おいおい、冗談はよせよなぁ。でも掃除ぐらい手伝ってもらうか。それで高校は?」
「はい、無事に3年になりました。」
「そうか良かったな、今夜は飯でもおごるか。」

 その夜と次の日で、最初の作品がなんとか完成した。ただ作品の中の尚文少年と目の前にいる彼の雰囲気がどこか違うのだ。あえて言うならば今の尚文少年の方が、明るく元気な感じがするのだ。初めて出会った2月から、出会うたびに明るく元気になっているようで、もう病人のような陰気なところはどこにもなかった。

「ねぇ、坂崎さん僕のポートレートなんですが、少し暗い感じですね。できれば、もっと違った感じに描いてもらえませんか。」
「そうだなぁ、まあ冗談だけど女の子にでも描いて見ようか。」
「えっ、本当ですか。僕はそれでもいいんです。次は女の子の服を持ってきます。」
 尚文少年はうれしそうに帰って行った。

第2章 女装のモデル

5月になり木々が鮮やかな若葉を装い、さわやかな風がふきわたる気持ちのよい夕暮れに松本城のスケッチを終わって帰りかけた私に、一人の少女が近づいて来た。ローズピンクのワンピースに白いふちの大きな帽子を被ったその少女が近づいて来た。

「坂崎さん、誰だか分かる、ナオミ、私は尚文よ。」
「えっ、まさか、ナオミちゃんって、本当に尚文くんか?」
「びっくりしたでしょう。今日は母の若い頃のお洋服のサイズがあうかどうか、試着してみたらあまりにぴったりだったんです。だからそのまま来ちゃったんです。」
「大胆だなぁ、靴も帽子もみんなお母さんのものかい。ぴったりだね。」
「坂崎さん、ナオミって可愛いくみえますか?」
「うんそうだね、とっても可愛く見えるよ。尚文くんじゃないみたいだね。」
「尚文じゃなくて、今夜は尚に美しいと書いて、『尚美』と呼んで欲しいな。」
「それじゃあ、本当に女の子のように描いても良いんだね。」
「もう坂崎さんたら、女の子のようにじゃなくて、尚美という女の子を描いてください。」
「はいはい、おかしな高校生の尚美ちゃんを描かせていただきます。」

女装しているにもかかわらず、恥ずかしがるどころか明るく振舞う彼女を見ていて、私の心までもがうきうきするような、時間が過ぎて行った。短い休みはあっという間に終わり彼女は帰って行った。

 6月になり初夏の日差しが容赦なく照りつける中で、穂高連峰の山並みを私は描いていた。梅雨のあいまの外での作業を早めに切り上げて、自宅に帰ると芸術大学の研究室に勤める秋山からの速達が届いていた。東京のC美術館の作品展で「青い服を着た少年」と題して応募した尚文君の絵が大賞に選ばれたというのだ。27歳にしてやっと果たした入選が大賞だなんて思いもしなかった。このうれしさを誰かに伝えずにはいられなかった。

 まるで私の気持ちが通じたかのように、その日の夕方きれいなドレスを着た尚美、いや女装した尚文君が私のアトリエを訪ねてきた。
「こんにちは、坂崎さんいますか。尚美です。」
「よくきてくれたね、君のおかげだ。今夜はお祝いにしよう。」
「なにかあったんですか、作品展で入賞ですか。えっ、本当ですか、うれしい。」
「さあ、お姫様。今夜はレストランにお連れしましょう。」
「坂崎さん、今日は尚美のお誕生日なの。もう18歳のレディーなのよ。」
 私はもうすっかり彼女が女装していることも忘れて、いつになく高級なレストランに行き、ローズピンクのかわいいドレスを着た尚美をまるで恋人のように扱った。酒に弱い私は、すっかりワインに酔ってしまった。

Naomi2s_2  家に帰りついたのも知らず、気がつくと私はベッドの中で尚美を抱きしめていた。彼女も覚悟をしていたのか、うすいピンクのスリップ姿で身体を堅くしていた。私は性体験が初めてではなかったので、できるだけ優しく彼女を抱き寄せて、そっとくちづけをした。いつのまに伸ばしたのか、彼女の栗色の髪の毛は長く、お化粧までしていることに気がついた。

「尚美ちゃん、君のことが好きだ。今夜、私はすべてを棄てても君が欲しい。」
「坂崎さん、いえ、隆一さん。あなたの好きなようにして。隆一さんのことが好きなの。」
「尚美ちゃん、ありがとう。」
「尚美って、呼んで。」
「尚美、愛してるよ。」
 私は尚美のうなじのあたりから唇を這わせながら、さらに首筋から胸のあたりにキスマークが残るぐらい激しくキスを繰り返した。そして彼女の一番たかまりを迎えている部分をさけて、太腿から足首、さらに指先までを舐め尽くした。

「ああ、もうだめっ。お願い、隆一さん、次は私にまかせて。」
「ああ、そんなにきつくくわえなくても良いんだよ。ああ、そうだよ。」
「これでいいの、感じてるの。」
「ああ、そうだよ。おおーっ、すごくいい、ああーっ。」
尚美の舌がからみつくように、先端を刺激するたびに私は声をあげてしまった。
そして私がのぼりつめようとした時、
「尚美の中でいって欲しいの、隆一さんのものを私にちょうだい。」
「なおみ、本当にいのかい。入るよ、そっとするからね。」
「はぁー、うっ、ううっ、」
「なおみ、痛むのかい。」
「大丈夫よ、もう大丈夫。隆一さんの感じるようにして。」

私は両手を尚美の腰にあてて、少しずつ腰を前後に動かし始めた。尚美は長い髪をゆらしながら私と一体になり、声を押し殺すようにしていた。ついに私も頂上に達する時が来た。「なおみ、とってもいいよ、今にも、ああー」
「隆一さん、なおみも感じるわ。おねがい、いま、とっても、あっ。」
 尚美の身体がぴくっとなり、その瞬間締め付けられた私も精を迸らせていた。

 朝日が容赦なく降り注ぐ、私が目を覚ました時には尚美、『尚文君』はいなかった。昨日のことが、まるで夢のような気がしていた。しかしテーブルの上には大賞を知らせる速達があった。


第3章 奇跡の入選

なおみ2 東京での授賞式の後、私はテレビや美術雑誌のインタビューなどで忙しく、十分に絵を描く時間もなかった。気がつくと8月も終わりかけていた。夏休みの間は家族とカナダで過ごすため、尚美こと『尚文君』とも会えなかった。しかし私のアトリエには、美しい尚美のポートレートが出来上がっていた。優しいまなざし、愛らしい口もと、ローズピンクのドレスのふくよかな胸元、黒い瞳がほほえむように私を見つめていた。東京での美術展に出す作品は、尚美のポートレートに決めた。

 9月に来た尚美はさらに美しくなっていた。まるで高校生の男の子が女装しているとは思えなかった。また彼女も、私の前では微塵も男としての振る舞いはなかった。夕方は私のモデルとして、微笑んでいた。彼女の年は確か18歳だったはずだが、22歳ぐらいに見えた。
そして夜は私の恋人として、尚美は私の腕の中で身を任せていた。東京から月に一度しかこれないことが、余計に二人を熱く萌えさせるのだった。彼女をモデルとした作品を私は描きつづけた、そして私には奇跡のようなことが起こった。

 東京の美術展に出した「尚美のポートレート」が入選したのだ。1年の間に2度も大きな賞を取れるなんて私には奇跡としか思えなかった。銀座の画廊や横浜、京都の画商からも私の絵を扱いたいと申し出があり、松本の街に戻れぬ生活が続いた。気がつけば、新年を迎えていた。1月の末で狭い松本のマンションから引越すことになって、夕方の日差しの中で一人で片付けをしていた。

「こんにちは、隆一さん。やっと会えたわ。」
「尚美ちゃん、ごめんね。なんかいろいろあって留守ばかりしてたんだ。」
「ううん、偉い画家先生になったんだなって、テレビに出ている隆一さんを見てたのよ。」
「今夜もゆっくりして行けるんだろう。」
「それが今夜は父が、私をきっと向かえに来るの。だからここにいると隆一さんにも迷惑をかけてしまうことになるから、暗くなるまでここに居させて。」
「そうか残念だな、じゃあ描きかけの絵を仕上げようか。」
「ここに座っていたらいいの。」
「そう、そこでじっとしてね。」

尚美の絵を仕上げようと彼女を見つめていると、いつもと違いどこかさびしそうな不安そうな感じだった。絵を描き上げて、二人で批評しあった。彼女には話さなかったが、今の尚美は前にも増して大人の女性としての美しさがあった。それは決して18歳の高校生ではなく25歳ぐらいの女性としての優雅さがあった。

「もうそろそろ、家に帰るわ。実は来週はじめに卒業記念の耐寒登山があるの。それに参加するのがイヤで、隆一さんに会いに来たの。」
「そんなにイヤなら参加するのをやめればいいのに、君のお父さんは参加しろと言っているのか。」
「ええそうなの、男がそれぐらいのことができなくて、家の会社の後が継げるかって。」
「君は社長になる定めなんだね。」
「私は父の再婚した新しいお母さんの子どもに継いでもらいたいの。」
「それなら君の考えをお父さんに僕が伝えようか。」
「ありがとう、でもやっぱり自分で話してみる。」
「そうか、またいつでも困ったら逃げて来るんだよ。」
「ありがとう、さよなら。私のこと忘れないでね。」
「尚美ちゃん、誰が忘れるもんか。」

 尚美ちゃんが帰って行った後、さびしさ、孤独感が強くなってきた。なぜか、彼女を帰すんじゃなかったと後悔していた。

第4章  尚美の真実 

 次の日、雑誌記者が訪ねて来た。『尚美のポートレート』のモデルは一体誰なのかと言うことだった。私は前にも話したように、東京の京王学院大学付属の高校3年生だと伝えた。
しかし雑誌記者はそんな生徒はいなかったと言うのだ。仁科と言う男子生徒が女装していたのだと説明したが、記者は携帯電話で何かを確かめた後、
「いい加減なことを言って、モデルを隠さなくても良いじゃありませんか。」というばかりであった。

 尚美の通っていた高校で事情を話して、仁科尚文と言う生徒を捜していると伝えた。すると応対していた教頭が驚いたような顔で話し始めた。
「仁科君は確かにうちの生徒でした。でもそれは10年前のことです。さらに悲しいことに耐寒登山に参加して、なだれにあって遭難されたのです。」

「どんな生徒さんだったんですか。他所では何も言いません、約束します。」
「実は私が教頭になる前に、担任していたのです。お母さんが亡くなり、お父さんと後妻さんと暮らしていましたが、時々松本のお母さんのお墓参りに行かれていたようです。おとなしい、優しい子でしたが、クラスの中では目立たないほうでしたね」

「他には、何か事情でもあったのでしょうか、お父さんとの間で」
「ただ、お話してよいか・・・。実は、尚文君がお母さんの服を着て女装することがあり、お父さんは何度かやめさせようと努力されたようです。耐寒登山も男の子らしくさせたいと本人を説得して参加させたのです。それがあんなことになって、遭難にあったのは皆からほんの少し離れたところでした。ちょうど明日で10年です。」

 私は車を走らせた、その山は一度行ったことがある、地元で消防団をしている民宿のおやじになんとか十年前の遭難場所に案内してくれと頼んだ。おやじはスノーモービルで山に連れて行ってくれると快く引き受けてくれた。翌朝は快晴であった。

「すみません、今日は面倒をお掛けします。よろしく。」
「お客さんは、ご親戚の人かね。あの時も朝は晴れてたんだ。」
「それでどうしてなだれが起きたんですか。」
「あの日、急に雷がなったんだ、その振動で表面の雪が崩れたんだね。」

 民宿のおやじがスノーモービルで20分ほど走ったところだった。私は礼を言って、帰りはゆっくり一人で降りるからと別れた。抜けるような青空だった、ゆっくりゆっくりとおやじが指差した現場に歩いて行った。しばらくすると急に風がふきはじめた、空の一点が黒くなり雪雲がせまってきた。雪が舞い上がり顔にかかった。

ふと前を見ると、ローズピンクのドレスを着た尚美が見えた。まるで来ないでと言うように手を振っている。そのときすぐ近くで雷鳴がした。ゴーゴーというような鈍い音がした、地面に倒れた尚美に近寄り抱き寄せた、尚美の手は暖かかった。その瞬間二人は真っ白い雪にのみ込まれてしまった。

「尚美、会いたかったよ。でもよかった、君を迎えに来たんだ。」
「隆一さん、もう私は帰れないのよ。あなただけでも幸せになって。」
「何を言ってるんだ、二人で頑張るんだ。」
「あなた、私は今のままでも幸せよ。あなたに会えて本当に良かった。」
「尚美,愛してるよ。」

 私達は寒くはなかった、お互いの身体を寄せ合って、そして私は尚美にくちづけをした。それから尚美の身体の下に僕のコートを置き、彼女を抱きしめた。暖かくなった私達はお互いに抱擁し、そして私は彼女のふくよかな胸にキスをし、乳首を口に含んだ。彼女も私の下半身に手を伸ばし、堅くなりかけていた私のものを優しく握りそして摩擦した。身体の場所を入れ替えて、私は彼女のものを口に含み、彼女は私のものを喉の奥深くに飲み込み、お互いに感じ始めていた。

「尚美の中でいって欲しいの、隆一さんのものを私にちょうだい。」
「尚美、じゃあゆっくり入るからね。」
「ああー、隆一さん、そうよ、いまあなたを感じているわ。」
「尚美、素敵だ、とっても暖かいよ。」
「ああー、もうだめっ、あなたっ」
「ぼくも、もうだめだ、なおみ、ああー。」
 二人が一つに結ばれたその瞬間に、気を失ってしまった。

 目がさめたら病院のベッドの上だった。看護婦の話しでは、雷の音がしたので民宿のおやじが心配してまた山に上がってみたら雪崩れが起きていた。それですぐに救助されたので命が助かったのだろう。でも自然にできた洞穴のような部分にはまりこんだので呼吸もできたしそれが幸運だったのだろうと言われた。雪崩れによる遭難者の多くは窒息によるものが多いという話だった。
 
私が頭を掻くと、一本の繊維が落ちてきた。ローズピンクのきれいな色だった。

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