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2007年7月 1日 (日)

女装をやめる時(女装断絶の修業)④

【あらすじ】はじめは遊びのつもりだったのです。女装クラブで女性の衣類を身につけて、お化粧をしてもらった、そこまでは軽い遊びのつもりだったのです。しかし、女装して悩ましいランジェリーを身につけて、女になる喜びを抑えきれなくなってしまった若者が、女装をやめようと決意しました。女装用品を始末して、精神修養の道場に向かうのでした。

【第4章 滝にうたれて】

 高速道路を30分ほどでおりると、さらに続くアスファルトの道路がしだいに山道になってくる。片側1車線の道路、くねくねとカーブが続きしばらくするとのどかな田舎の風景が続いた。トランクに入りきらなかった女装用品の詰まった箱を後部座席にも載せて、涼子は愛車を走らせていた。

「もう元には戻らないから」
そう誓いながら涼子は今、亮介(りょうすけ)という男性の自分に戻り人生をやり直すため、女装を断絶するための修業道場に向かっている。

カーナビが料理旅館の近くにきていることを示していた、ここで道を曲がるとそこが修業道場の本部。道は狭くなり木々が、日差しをさえぎり薄暗い。そのまま道なりに進むと大きな石碑があり、道場のある宗教施設に着いた。

車から降りると、事務所に声をかけた。
「こんにちは、本日10時のお約束の佐藤ですが」
「はい、新規に入門される方ですね、お待ちしていました」
「荷物はどこに収めたらいいでしょうか」
「荷物はそのままで、まず本殿にお入りください」

薄暗い廊下を案内されながら、本殿に入った。大広間に仏像が安置されていて、信者らしき人が読経していた。その大広間を通り過ぎて、20畳ぐらいの応接室に案内された。
「こちらにて、少々お待ちを。教務主任が参ります」
ソファーに腰をかけていると、プロレスラーのような体格の大きな女性が来た。
数珠を手にかけて、黒い袈裟衣、頭髪は長く、うっすらと化粧もしていた。

「あなたが佐藤さん、これからはきびしい日課に従って生活していただきます」
「あなたの目的は、精神修養でしたね、で、どうしたいのですか」
「申込書にも書きましたが、男らしく生きたいのです」
「男らしくって、あなたは男でしょ。なぜ男らしく生きたいの」
「それが、言いにくいことなんですが、僕は・・」

Red3 「佐藤さん、あなたは女装するのが好きなのね。それをやめたいと思ったわけ?」
「は、はい。このままでは、だめだと思ったんです」
「女になりたいとか、身体まで女性化してみたいと思うようになったんだ」

「そうなんです、女装して男性に愛されたいとか、性転換したいとか」
「ホモじゃないわけね、心は女性になってしまうわけね」
「このままだと、男として生きていくことができなくなるようで」
「家族はあなたが女装することを知っているの?」
「今は一人暮らしだし、そのことは家族にも秘密です」

「今日から、新人は2週間、外出禁止、携帯電話や車も使えなくなります」

教務主任は、道場での生活について説明の後、配属される宿坊を案内してくれた。白い大型のベンツに先導され、少し山を降り、明るい日差しのふりそそぐ農村地帯の端にあるお寺の前で止まった。

「ここは400年続いている農耕の祈祷専門のお寺です。地元の人には熱心な方も多いので、礼儀正しく、西川導師の指示通りにしなさい」

西川導師の奥さんと言う人が迎えてくれた。これから寝泊りする四畳半ほどの部屋に案内された。

「こんにちは、佐藤さんですね、西川の家内の佳代子です」
「はい、佐藤です、これからお世話になります」

あいさつが済むと、あらかじめ用意された修業衣に着替えた。足袋を履き、草履を履くと再び道場本部に向かうベンツに載せられた。道場の手前にある料理旅館で降ろされた。

旅館に入ると、教務主任に向かって旅館の従業員があいさつをした。
「女将さん、お帰りなさい」
「女将から皆に伝えておきます、今日から来てくれる佐藤君です」
「皆さんこんにちは、佐藤です、よろしくお願いします」
「佐藤君は、道場での朝のお勤めが終わると、客室の布団あげ、清掃などをしてもらいます。お昼が終わると、また道場でお勤めです。夜も寝具の係りをしてもらいます」

その日からすぐに道場、料理旅館、宿坊のお寺で過ごす生活が始まった。
朝は5時起き、これが最初はきつかった。それも慣れてくると、めざまし時計に頼らなくても起きれるようになった。

祈祷寺で、仏様に新しいお水をお供えすると、門前から本堂までを掃除して次には西川導師というか和尚の読経が始まるのだった。あっさりした食事のが済むと、送迎用のマイクロバスが来て料理旅館で降りるものと道場本殿組に分かれた。

旅館の客室の清掃が終わると、早めの昼食をとり、道場本殿に向かうのだった。ただし、修業者は男性ばかりではなく、女性もいることに驚いた。

本殿では、男女混合のまま、精神講話、教義講読、奉仕行動、精神鍛錬、写経など決められたカリキュラムで午前、午後を過ごして行くことになった。

次第に、話をする程度の自由時間もあって、顔見知りになるのは早かった。由紀さんという女性は30過ぎだけど、夫からの暴力から逃げ出してきたと言う。離婚して、親権者となった彼女は子どもを施設に預けているが夫にも居場所を明かしてはいない。

「ここでの生活費は、旅館とかの従業員として支払われている給料でまかなっているみたいよ」
「ふーん、そうなんですか。だからあまり費用はかからないのですね」
「でもね、一部屋朝夕のの布団しきや、掃除で800円、受け持ち5部屋で4000円
というところ。月に12万ぐらいが相場よ」
「そうなんですか、由紀さんはよく知っているんですね」
「旅館に勤めたことがあるから、だから、もう少し小遣いをくれてもいいのにね」
「修業できて、費用が無料ならそれもいいじゃないですか」
「佐藤さんは、お人よしね。でもなぜここに来たの、多重債務かなんかやばいこと?」

「そうじゃないんです、今までのままでいるとだめになると思ったんです」
「精神的な悩みって言うやつね、恋人はいなかったの」
「恋というか、恋人以前の問題なんです」
「なんか難しいのね」

由紀さんとのやり取りの後、コースが違うためか出会うことも少なくなった。ただ、私達の修業にも、性的な悩みを持つものが少なからずいて、邪念を祓うという理由で道場の裏山にある滝にうたれる「ご修法」なるものがほぼ毎日繰り返された。

冷たい水しぶきに入ると身体は凍りつきそうなほど、吐く息も白く、10分ほどの間「般若心経」を繰りかえしながら口ずさみ、中には倒れそうになるもの、精神が高揚して身体が震えだすものもいた。

しかし、水から上がり滝つぼを離れ、道場の大浴場で温まり、修業衣に着替えて座禅を組む頃には、心身とも爽やかにとても落ち着いたすっきりした気分になるのだった。

修業1ヶ月が無事終わろうとしているころ、「女装」から離れて生活する毎日に、自分でも不思議なくらい満足していた。そして新たな修業が開始された、そのことが思わぬ結果を招いてしまうことにまだ気づいてはいなかった。
                                         《続く》  第5章もお読みください。

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